高血圧とは、持続的に血圧が基準値より高い状態を指します。血圧は心臓が血液を送り出す圧力で、「収縮期血圧(上の血圧)」と「拡張期血圧(下の血圧)」の2つの数値で表されます。
日本高血圧学会の診療ガイドライン(JSH 2019)による分類は以下の通りです。
高血圧のリスクと合併症
高血圧は長年にわたり血管内皮細胞を傷つけ、動脈硬化を促進します。その結果、以下の重篤な疾患を引き起こす可能性があります。
脳血管障害:脳出血、脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)
心疾患:心筋梗塞、狭心症、左心室肥大、心不全
腎障害:慢性腎臓病(CKD)、腎不全
大動脈疾患:大動脈瘤、大動脈解離
眼疾患:高血圧性網膜症
動脈硬化は、血管内皮の障害とLDLコレステロールの沈着から始まり、血管壁にプラーク(粥状病変)が形成されていきます。高血圧があると血管への圧力が増し、以下のように進行します。
血管内皮の損傷
LDLコレステロールが侵入・酸化
マクロファージが侵入し泡沫細胞となる
プラーク形成と血管狭窄
血栓形成やプラーク破裂による急性イベント(心筋梗塞・脳梗塞など)
高血圧は一次性(本態性)と二次性に分けられます。約9割以上が原因不明の一次性高血圧ですが、以下の危険因子が関与します。
高塩分食(特に1日6g以上の塩分摂取)
肥満(特に内臓脂肪型)
運動不足
飲酒・喫煙習慣
慢性的なストレス
加齢(動脈硬化の進行)
遺伝的要因(家族に高血圧がいる)
睡眠時無呼吸症候群などの併存症
高血圧の管理は、生活習慣の是正を基本とし、必要に応じて薬物療法を併用します。
治療目標は、合併症の有無や年齢に応じて設定されます。
若年〜前期高齢者(75歳未満):130/80 mmHg未満 家庭125/75
後期高齢者(75歳以上):140/90 mmHg未満(状態に応じ調整) 家庭135/85
減塩(1日6g未満)
DASH食や地中海食を参考にしたバランスのよい食事
BMI 25未満の維持(体重管理)
有酸素運動(週150分以上の中強度運動)
禁煙・節酒
睡眠の質の向上
Ca拮抗薬(例:アムロジピン)
ARB/ACE阻害薬(例:オルメサルタン、エナラプリル)
利尿薬(例:ヒドロクロロチアジド)
β遮断薬(例:ビソプロロール)
状況により併用療法が必要となることもあります。
当院では、高血圧に対する個別対応型の治療方針を採用し、患者さん一人ひとりのリスクに応じて丁寧に対応しています。血圧手帳によるモニタリング、生活指導、薬剤調整を行いながら、合併症予防に取り組んでいます。
「血圧が少し高めかも…」「家族に高血圧の人がいる」「薬を減らしたい」など、お悩みのある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
動脈硬化の進行を防ぎ、心血管イベントを予防するためにも、早期の対応が重要です。力してください
Q. なぜ「下の血圧(拡張期血圧)」が高くなるのですか?
A. 血管の内側の抵抗(末梢血管抵抗)が高くなることが主な原因です。
心臓が拡張しているとき(=下の血圧)は、血液が全身の細い血管を通って戻っていく時間です。このときの血圧が高くなる理由として、以下のような原因が挙げられます。
原因 | 解説 |
---|---|
交感神経の過活動 | ストレスや緊張状態が続くと血管が収縮し、血圧が上がります。特に下の血圧に影響します。 |
肥満 | 体重が増えることで血液の循環量が増え、血管にかかる負担が増加します。 |
高塩分食 | ナトリウムの取りすぎにより血管が収縮しやすくなり、血圧が上がります。 |
喫煙・飲酒 | 血管の収縮や動脈硬化を引き起こし、下の血圧が上がりやすくなります。 |
運動不足 | 血管の柔軟性が低下し、末梢抵抗が上昇します。 |
睡眠不足やいびき(睡眠時無呼吸症候群) | 睡眠中に酸素が不足すると交感神経が活発になり、血圧が上がります。 |
下の血圧が90mmHg以上が続いている場合は、「拡張期高血圧」と診断されます。
若い方でこのタイプが多く見られ、将来の心臓病・腎臓病のリスクが高まることが知られています。
減塩(1日6g未満)
適正体重の維持
有酸素運動(ウォーキングなど)
禁煙・節酒
ストレスコントロールと十分な睡眠
A. どちらも大切ですが、年齢や体の状態によって注目すべき血圧は異なります。
種類 | 説明 |
---|---|
上の血圧(収縮期血圧) | 心臓が血液を押し出すときの圧力。動脈が硬くなると高くなります。 |
下の血圧(拡張期血圧) | 心臓が拡張して血液をためているときの圧力。細い血管の抵抗で決まります。 |
若い人では動脈が柔らかいため、下の血圧(拡張期血圧)が高い場合、血管の収縮や交感神経の興奮、生活習慣に問題がある可能性があります。
➡ 長期的には心臓病や腎障害のリスクになります。
加齢により動脈が硬くなると、上の血圧(収縮期血圧)が高くなる傾向があります。
➡ 特に高齢者では脳卒中や心筋梗塞のリスクと強く関連します。
年齢層 | 注目すべき血圧 | 代表的なリスク |
---|---|---|
若年者(〜50歳) | 下の血圧(拡張期) | 心肥大、腎障害 |
高齢者(60歳〜) | 上の血圧(収縮期) | 脳卒中、心筋梗塞 |
上の血圧だけでなく、下の血圧も放置すると重大な合併症につながります。
ご自身の年齢や体調に応じた治療目標を医師と相談することが大切です。
血圧は日によって変動しやすいため、正しく測定することがとても大切です。
以下のポイントに気をつけましょう。
朝:起床後1時間以内、排尿後、朝食前、薬を飲む前
夜:夕食前または就寝前
📌 ※毎日同じ時間帯に測定するのが理想です。
測定30分前までに避けること | 理由 |
---|---|
カフェイン(コーヒー・お茶など) | 血圧を一時的に上昇させる |
喫煙 | 血管を収縮させ血圧を上昇させる |
運動・入浴 | 一時的に血圧が変動する |
静かな環境で1〜2分安静にしてから測定
背もたれのある椅子に腰かけ、足を組まず、足裏を床にぴったりつける
腕は心臓の高さに保ち、リラックスした状態で測る
腕まくりせず、血圧計のカフ(腕帯)を素肌に巻く
2回測って平均値を記録する(特に家庭での測定)
毎日測ることで、体の変化に早く気づくことができます
測定値は「血圧手帳」やアプリなどで記録しましょう
間違い例 | 正しくは… |
---|---|
腕をぶら下げて測る | 心臓の高さに保つ |
1回だけ測って終わる | 2回測って平均を取る |
緊張したまま測る | 深呼吸してリラックス |
以上のポイントがありますが、やはり一番大事なのは長く続けることです。
毎日測定できなくても問題ありません。
時間もずれても大丈夫です。
血圧は慢性疾患ですので、無理なく継続して測定しましょう。